「感覚ゴルフ」から「スポーツ科学的ゴルフ」の時代へ Vol.1
【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)
●テーマ:「練習時間」
「ゴルフ上達に近道なし」。最低限の練習時間をこなすことは必須!
多くのゴルフ雑誌の見出しには、「この練習法をやるだけで・・」、「誰も知らない秘密の最速上達法・・」等々、枚挙にいとまがない程にゴルファーを誘惑する文字が並んでいます。
果たして本当に効果のある一過性トレーニングは存在するのでしょうか?一方で、これらの見出しや表現は100%否定できるものでもありませんが、多くの熟練したゴルファーは、プロレベルに到達するには少なくともどれくらいの練習時間を積み上げる必要があるのかを身をもって知っています。
ピアニスト、サッカー選手は1日3時間を10年間(約1万時間)の練習を
それを裏付ける根拠としてゴルフと同じように高度なスキルを要するピアニストを対象とした研究論文があります。
そのなかでEricsson ら(1993)は、一流のピアニストまでに到達するためには、1日3時間の練習を10年続けることで約1万時間要することを提唱しています(図1)。
更にHelsenら(2000)は、サッカー選手でも国際的な選手までに到達するためには1万時間の練習を積み上げることが必要であることを提唱しています(図2)。
各個人が持っている技能(スキル)を限界値まで引き上げるには1万時間の練習が必要
これらの研究論文は、プロゴルファーまでに到達するためには1万時間の練習時間が必要であるという根拠になっているものと思われます。
しかしながら、ゴルフ種目においてこのような研究論文は公表されておりませんが、私自身が今まで練習してきた時間を換算するとスクラッチプレーヤーになるまでに要した時間は1万時間とほぼ一致します。
このような事実は、私の周りのプロゴルファー数人でも同じように当てはまりました。
もちろん、累積練習時間には個人差があり、ゴルフキャリア1年間で70台のスコアが出せる人もいるでしょうし、また3年間でプロレベルに到達した方もいるでしょう。
しかしながら、これは過去のスポーツ活動歴も影響していると考えられ一般化することは出来ません。
つまり、各個人が持っている技能(スキル)を限界値近くまでに引き上げるには、毎日3時間の練習を10年続ける必要がありそうです。
上達には一定の時間が必要ということを理解する
なお、ここでの説明は、あくまでプロレベルに到達したい場合でのことですので、そうではないゴルファーの方にとっては、そこまで覚悟する必要はありませんのでご安心下さい。
いずれにせよ、運動に対する正しい思考(心理学的側面)や方法(運動学的側面)を理解し、ある一定の時間をかけることを覚悟することで、その時間に見合う上達は保証されるといえます。
今後の内容では、これまでの研究論文やデータに基づき、ゴルフの上達に関わる真実をできる限り正確にわかりやすくお伝えしていきたいと思います。
図1 ピアニスト年齢と練習時間との関係(文献1より改変)
図2 サッカー選手の年齢および経験年数と練習時間との関係(文献2より改変)
引用文献
1) Ericsson, K. A., Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological review, 100(3), 363.
2) F. Helsen, W., Hodges, N. J., Winckel, J. V., & Starkes, J. L. (2000). The roles of talent, physical precocity and practice in the development of soccer expertise. Journal of sports sciences, 18(9), 727-736.