「感覚ゴルフ」から「スポーツ科学的ゴルフ」の時代へ Vol.3

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)

●テーマ:パッティングの確率 期待と事実
「US PGAの選手が2.5mの距離を1パットで入れる確率は?!」


US PGA選手でも2.5mの距離を1パットで入れる確率は50%

パッティングの技術的な話に入る前に、パットのカップイン率についての事実を知る必要があります。つまり、パットはある距離からどれくらいの確率で入れることが可能であるのかを知り、そのパットの事実を理解した上で、効率的な思考法、練習法を提案していきます。冒頭に示したUS PGA選手が2.5mの距離を1パットで入れる確率の平均値は、50%です(表1)。

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※2003~2012年のPGAツアーにおける400万回近くのパット分析に基づく結果(文献2より改変)

世界中の強豪が集うUS PGA選手の腕前を持ってしても2.5m距離を1パットで入る確率は50%なのです。これは、2003年~2012年のPGAツアーにおける400万回近くのパット分析に基づくデータです。このような膨大なデータを惜しみなく発表しているのが、Mark Broadie氏のEvery Shot Countsという書籍です(文献1・2, 日本語版:ゴルフデータ革命, 2014)。

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このような事実を知らない多くのゴルファーは、自身のパットに対して過剰な期待を持ちすぎているように感じられます。ゴルフのテレビ中継では、優勝争いをする選手達がミドル・ロングパットを次々と沈めるシーンが繰り返し放送されています。その影響からかプロであれば10mくらいまでは高い確率でカップインしているような誤認識をし、パットを決められない自分に対して必要以上に嫌悪感を抱く原因となっているように思われます。

9mの距離を1パットで入れる確率はわずか7%

そして表1のPGAツアーにおける各距離に対する平均パット数をよく見ると、3フィート(約1mの距離)では、96%の確率でカップインし、3パットの確率は0.1%と極めて小さくなっています。またホールアウトまでの平均パット数は1.04という結果になっています。8フィート(約2.5m)では、1パットの確率は50%、平均パットも1.50となっており、まさにこの距離が勝負の分かれ目となる距離といえます。さらに30フィート(約9m)では、1パットの確率はわずか7%となり、プロであっても100回打って7回しか入らないとなると、かなり難しい距離だということが理解できます。意外なことに3パットの確率も5%あり、平均パット数は1.98と、この距離ではプロであっても1パットではなく2パットでも仕方ない距離だということがわかります。

10m以上のロングパットでは、理想は1ピン以内

ここまでで示してきたデータはあくまでプロ選手のデータですが、自身がプレーを行う上でも、これから打とうとする各距離のパットに対してどれくらいの成功率になるのか見当がつくようになり、少なくともパットに対する過剰な期待を防ぐことができるでしょう。また、戦略的な面からもロングパットを行う際には1ピン以内(一般的な長さは2.43m)に近づけなければ次のパットは厳しくなることが予測でき、ピンを刺したままパットできるようになった2019年からは、ピンの長さを半径に円の中にボールを止めることを意識してパットを行うことで、距離感のイメージをより鮮明に持ちつつスリーパット防止に役立てて頂きたいと思います(図1)。

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図1 10m以上のロングパットでのターゲットイメージ

引用文献
(1)Broadie, M. (2014). Every Shot Counts: Using the Revolutionary Strokes Gained Approach to Improve Your Golf Performance and Strategy: Avery.
(2)マーク・ブローディ(2014) ゴルフデータ革命, プレジデント社, pp54-84

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エビデンスGolf(ジュニア編)