「感覚ゴルフ」から「スポーツ科学的ゴルフ」の時代へ Vol.6

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)

●テーマ:ストローク技術の要因分析
「フェース向き80% パターの軌道17% インパクト打点3%」


前回は、グリーンの読みがパッティングパフォーマンスの距離要因に対して、最も重要であることを確認しました。
しかしながら、技術的なことが全く必要ないというわけではありません。
グリーンの読みとストローク技術は相補的な関係があり、どちらかが欠けてもパッティングパフォーマンスは成立しません。
今回は、34%を占める技術的な要因のなかで、さらにどのような要素が方向(Direction)を決定する要因になっているのかを説明します。

エビデンスGolf

図1 パッティングパフォーマンスを決定する主な要因モデル(文献(1)p7より引用改変)

今回説明する部分は、赤枠部分のストローク方向の一貫性に関する相対的な重要度をご紹介します(図1)。
Karlsenは、クラブフェースの向き、パターヘッドの軌道、インパクトの水平方向への打点、3つのパラメータを対象に調査し、それぞれの重要度を示しています(文献1)。
実験はパッティング距離3~4m、71名のエリートプレーヤーで行われ、26名がプロ、そのうち10名はヨーロッパまたはUSツアーに参戦する選手を含んでおり、実験参加者は全員ハンディキャプ10以下でした。研究によると、方向の一貫性にとって最も重要度が高いのは、クラブフェースで80%、次にパターヘッドの軌道17%、インパクトの打点3%という具体的な数値(寄与率)を提示しています(表1, 図2)。

表1 ストローク方向の一貫性を規定する要因 (文献(3)より引用改変)

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図2 ストローク方向の一貫性に対する相対的寄与率(文献(3)より図式化)

フェースの向き

 フェースの向きは、パターヘッドの軌道よりもはるかにパッティングパフォーマンスに影響を与えます。
この見解は、Pelz (2000) によって以前にも確認されており、フェースの向きはボールの飛び出し方向の83%を決定し、パターヘッドの軌道は17%の影響しか与えないことを報告しています(文献2)。
またKarlsenら(2008)は、パッティング技術における一貫性(変動性の小ささ)も考慮すると、クラブフェースの向きにより約80%の方向性が決定されていることを報告しており(文献3)、インパクト時のフェースの向きは最も重要な要素であることを認識するべきと考えられます。

パターヘッドの軌道

 パターヘッドの軌道は、先に示したエビデンスを知らないアマチュアゴルファーがミスを起こした場合に原因として考えてしまう要素かもしれません。
これは、コースでのストローク場面でも、我々のパッティング技術の指導場面でも同様です。
これはフェースの向きに比べ肉眼でも誤差が確認しやすいことが原因と考えられます。
しかしながらこの要素が17%の影響しか与えないからといって気にしなくても良いというわけではなく、明らかな誤差がある場合は修正する必要があります。
Marquardt(2007)の研究では、99人のプロプレーヤーを対象に4m距離で行った実験でのパターヘッドの軌道は、1.1度のアウトサイドインでした(文献3)。
エリートプレーヤーではこの軌道の誤差(パス)が非常に小さいため、その練習に時間を割く必要性は少ないのですが、アマチュアゴルファーの場合はパッティングにおけるパスの状況も、いずれかのタイミングでデータを取り認識しておくことは重要であるといえます。

インパクト打点

 Karlsenが行った研究での未発表データによると、10種類の異なるデザインのパターヘッドにおける水平方向つまりフェース面の横方向に1cmミスヒットした場合、ボール飛び出し方向の誤差は平均0.34度であったと報告しています(文献1,5)。
そして、仮にこのようにインパクト打点がずれてもボールの初期の飛び出し方向にはほとんど影響を与えないことを発見しています。
また、パット機械を用いてインパクト打点を変えてミスヒットを再現し、ボールが転がる距離を調査した研究では、水平方向に2cmミスヒットした場合、パターの形状により約2.0~5.5%距離が減少することを報告しています(文献5)。
10mのパットをした場合では最大55cm程度の距離の減少となります。以上のことから打点(スイートスポット)に関しては、1~2cmくらいのミスがあっても許容範囲として捉えることが良いと言えるでしょう。

過度の技術志向へ警鐘

 約10cmのカップ直径にボールを沈めるために許される左右の誤差は、その半分の約5cmと仮定します。
この場合4m距離で許される打ち出し方向の誤差は0.5度になり、カップ付近では3.5cm程度センターからはズレますがカップインできる計算となります。
Karlsenの行った実験に参加したヨーロッパツアー選手たちのストローク方向の変動は、平均で0.39度であり理論上は、4mからのパッティングはほとんど入る計算となります(文献3)。
しかし実際は、プロ選手でも4mで約20%弱の成功率となっています。
この事実から、今後グリーンを読むための方法がさらに開発されれば、成功率がより高まっていくことを期待しています。

引用文献
(1) Karlsen, J. (2010). Performance in golf putting. Dissertation from the Norwegian school of sport sciences.
(2) Pelz, D. (2000). Dave Pelz´s putting bible. New York, Doubleday.
(3) Karlsen, J., Smith, G., & Nilsson, J. (2008). The stroke has only a minor influence on direction consistency in golf putting among elite players. Journal of Sports Sciences, 26(3), 243-250.
(4) Marquardt, C. (2007). The SAM PuttLab: Concept and PGA Tour data. In, S. Jenkins (Ed.) Annual Review of Golf Coaching 2007, 101 - 120. Brentwood, UK, Multi-Science Publishing.
(5) Nilsson, J. (2006). A new device for evaluating distance and directional performance of golf putters. Journal of Sports Sciences, 24(2), 143-147.

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エビデンスGolf(ジュニア編)