「感覚ゴルフ」から「スポーツ科学的ゴルフ」の時代へ Vol.11
【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)
●テーマ:距離VS方向
Vol5~10にかけて、図1に示すパッティングパフォーマンスを決定する主な要因モデルを適用してパッティングに関する様々な科学的エビデンスを紹介してきました(引用1)。これらの研究結果を受けて、実践への応用の仕方は本来、読み手に任されているのですが、今回は、距離と方向について著者らが考える応用方法の例を紹介したいと思います。
方向誤差よりも距離誤差は大きい
パッティングパフォーマンスの決定要因において、距離と方向の2大要因があります(図1)。我々の行った2m近距離の実験研究でさえ方向誤差よりも距離誤差は大きいことが明らかとなっています(引用2)。そのため、練習では第一に最適な距離を打てるようにトレーニングを実施する必要があります。それでは、目指す最適な距離とはカップまで丁度の距離なのでしょうか?その答えについて、世界的パッティング研究の第一人者であるペルツは、カップのバックエッジから43㎝で停止する程度の距離が最適であることを実験結果より導出しています(引用3図2)。詳しくはVOL7グリーン面の凸凹参照
図1 パッティングパフォーマンスを決定する主な要因モデル(文献(1)p7より引用改変)
「25.4cm〜88.9cm」約57cmオーバーを狙いに
この結果を著者らは更に検討し、最適な距離とは、50%以上の高確率なうえに、もしカップインできなかった時の次打のリスクを回避できる「25.4㎝~88.9㎝」の間に停止する距離に打つべきと考えました。これは、33インチの標準的なパタークラブのグリップ(約27㎝)よりも遠くて尚且つクラブヘッドの先端(約84㎝)よりも短い距離の間に相当します(図2)。更にその中間点は約57㎝グリップ2つ分の長さ(約54㎝)になるので、前後どちらに誤差がでてもいいように、カップの後ろ側のエッジから約57㎝のグリップ2つ分のところを狙うことを推奨します。
図2 カップインに最適な距離(文献(4)パッティングの科学p96より引用改変)
最適な距離で練習することで方向性にも好影響
パター練習の際には、方向ミスの前に最適な距離で打てていたのかどうかを真っ先にフィードバックすることが大切です。最適な距離であれば次に方向への調整へ意識を向けるべきです。曲がるラインの練習では、打つ距離がバラバラでは、曲がり方も打つ強さによって変わってしまうのでいくら方向に気をつけたとしても無意味な練習になってしまいます。最適な距離で打てた時の曲がり方を定着させていかなければ、最適な狙いや方向を習得するための練習にはなりません。また、「25.4㎝~88.9㎝」を目指すのは、1パットで沈める可能性の高い近距離でのパッティングにおいての練習です。練習者のレベルにもよりますが、PGAツアーのデータでは、約2.4mが1パット率50%なので、その前後の距離では「25.4㎝~88.9㎝」を目指して精巧・繊細な距離の調整練習をおこなうべきと考えます。
中〜長距離では57cmオーバーにこだわらない
しかしながら、プロであっても約4.5m距離からの平均ストロークは1.78打,約9mでは1.98打と距離が長くなればなるほど3パットのリスクも高まるので、そのような中~長距離のパッティングでは、練習及びラウンド中であれば無理に最適な距離を狙わず、2パットで終えるためにカップよりオーバーにこだわらず、ショート、オーバーに関係なくできる限りカップに近づけておくことも方略の1つです。
引用文献
(1) Karlsen, J. (2010). Performance in golf putting. Dissertation from the Norwegian school of sport sciences.
(2) Takeru Suzuki, Yoshiaki Manabe, Hiroshi Arakawa, John Patrick Sheahan, Isao Okuda, Daisuke Ichikawa. (2019) A comparison of stroke distance error from dominant and non-dominant putting stance in professional and novice golfers.
(3) Pelz, D., & Mastroni, N. (2004). Putt Like the Pros: Dave Pelz's Scientific Way to Improving Your Stroke, Reading Greens, and Lowering Your Score: Aurum.
(4) Pelz, D., 児玉 光雄 (翻訳). (1999) パッティングの科学. ベースボールマガジン社.