ショット編 VOL.14

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)

●テーマ:アップヒルとダウンヒルで打撃した場合、身体のポジションや弾道はどう変化するのか?
-Flat VS Uphill&Downhill  平地 左足上がり 左足下がりのショット比較-


 実際のゴルフコースでは、練習場と違いフラットな場所からショットを打てることは稀です。ラウンドするコースの地形により差異はありますが、それでもフラットな場所からだけのショットで18ホールをプレーできることはありません。コースラウンド時の調査研究では、プロゴルファー22名を対象に異なる16コースをラウンドした時の合計953ショットの傾斜を分析しています。その結果、全ショットの平均斜度は、4.6°であり、約80%のショットは、1~10°の間の傾斜でショットしている事実が明らかにされています(引用1)。これは、プロのデータでありミスショットの多いアベレージゴルファーではさらにトラブルショットを強いられ、傾斜の強い場所からショットしなければならない可能性もあります。今回は、様々な傾斜の中でも、左足上がり(Uphill)、左足下がり(Downhill)でのショットに関する研究をご紹介します。



傾斜における測定方法

 これまでゴルフスイングの分析には、平らな傾斜でおこなったスイングを分析することが一般的でした。しかし近年Blenkinsopら (2018, 2019)は、屋内環境に傾斜板を作りUphillとDownhillでのショットを比較した研究結果を発表しています(引用2, 3)。この研究では、5°の傾斜板の上から6番アイアンを使い、20名のローハンディプレーヤー(HDCP-3~5)と12名のアベレージゴルファー(HDCP10~15)を対象としています。屋外環境に近づけるため、ゴルファーがアドレスする前にシュミレーションゴルフのバーチャル映像を設置し、UphillとDownhillで5°の傾斜の土台から弾道測定と重心動揺を含む動作分析を行いました。



身体重心の位置

 この測定では右足側に身体重心がある場合を0%とし、左足側にある場合を100%と定義し測定しています。バックスイングでは右足にダウンスイングでは左足に重心が移るという基本的なパターンは、両群ともに同じでした。また、アドレスからUphillでは右足寄りにDownhillでは左足寄りにFlatではその中間でスイング中に重心が移行していくパターンも同じ傾向がみられました。しかしながら、際立つ違いは、ローハンディ群ではアドレス時にみられた重心の差異がスイング中もほとんど変わらず、3本の折れ線グラフは、アドレスからフォーロースルーまで平行に移行しています(図1左)。一方アベレージゴルファー群では、ダウンスイング以降3本の線は一致していきます(図1右)。ローハンディ群では、5°という傾斜に対し、普段行うであろうFlatでのスイングの重心を傾斜環境に適応・変化させてスイングしていました。対照的にアベレージゴルファー群では特にダウンスイング以降は、Flatでのスイングとほとんど同じ重心移動となり、傾斜環境に影響されずにスイングしていました。それでは、どちらの方策が結果は良かったのでしょうか?次項で弾道結果をみていきましょう。

エビデンスGolf

図1 各スイング局面での身体重心位置の移行 (引用2.3より改変)



ショット弾道結果

 ローハンディ群とアベレージゴルファー群では、3つの条件全てで、当然ながらローハンディ群が目標からの着弾地点の左右誤差は少なかった(表1)。そのため、環境に適応させてスイングしていたローハンディ群の身体重心位置の移行はアベレージゴルフファーにとって参考になります。また、両群ともUphillが最も目標からの誤差が大きい結果となっていました。この実験ではシミュレーション映像を使ったためか、全ての条件でボールの着弾地点が目標よりも左になっていました。ローハンディ群とアベレージゴルファー群の比較では、ボール初速や高低の打ち出し角度、着弾地点などには違いがありました。しかしながら、スロープの違いにおいては両群で共通していた点も3つありました。
1. ボール初速は、傾斜により差がなかった
2. 高低のボール打ちだし角度は、Uphillが最も高く、次いでFlat、最も低いのはDownhillであった
3. 左右着弾地点の誤差は、Uphillが最も左に、次いでFlat 、最も右に着弾するのはDownhillであった
ローハンディ群と同様にアベレージゴルファーでもUphillとDownhillでは上記3つのようなショット傾向を示したことから、
ラウンド時のショット戦略に役立てられます。


表1 着弾地点の目標から左右の誤差(引用2.3より改変)

   HDCP -3~5群  差  HDCP 10~15群
 Flat  左2.9±12.6  <  左8.9±11.6
 Uphill  左8.4±9.4  <  左15.6±14.2
 Downhill  左0.5±9.7  <  左4.8±12.7


傾斜でのアドレスの違い

 この研究では、ボール位置と身体各部のアライメントも計測されており、意味のある両群に共通していたことはボール位置とアドレス時の両腰の方向(飛球線に対する腰椎の向き)でした。ボール位置は、Uphillが最も左足寄りで、次いでFlat ,最も右足寄りにボールをセットしたのはDownhillでした。ボールの位置が左足寄りだったためか、両群ともにUphillのみ約5°も目標よりも両腰の方向が左を向いていました。一方Downhillには、そのような極端な両腰の方向の誤差はみられなかったことから、Uphillでのボールの着弾地点の誤差が最も大きかった要因の一つに、両腰の方向及びボール位置の影響が考えられました。



実践への応用と示唆

□上級者の方が傾斜によってスイングを変化させ、適応したスイングをおこなっていた
□適応の仕方は、アドレス時にできた重心位置の偏りをスイング中も保っていた
□偏りを維持したまま打つ感覚は、低い方にある足をスイング中に踏ん張る感覚だと推測できる
□Uphillではあらかじめ右を狙い、Downhillではあらかじめ左を狙う従来の基本を支持する結果である
□コース内平均に近い斜度5°ではボール初速に差がないことからほとんどの傾斜では距離が落ちない


上級者やプロがよく言う「傾斜でも普通に(同じ様に)打てばいい」という感覚は、体重配分がアドレス時の偏りのまま同じパターンで移行するという意味では間違いではありません。しかし実際は、アベレージゴルファーの方が傾斜の違いによる変化は少なく、どのような傾斜からでも同じ様な運動パターンによってスイングをしていました。つまり、プロや上級者では自分がおこなっている主観的感覚と客観的な計測値にはアマチュアと比較すると大きな差が生じているということです。そのため、プロや上級者の言う主観的な「動きのコツやカン(動感=運動感覚)」は、アベレージゴルファーにとって上達には欠かせないヒントである反面、それが絶対というわけでもなく、ゴルフ学習の難しさを象徴しています。


今回の引用文献2) 3)の内で論文引用された重心動揺の論文4)を執筆した奥田功夫教授(東京国際大学)より以下のようにコメントを拝受しました。
 日本のゴルフ環境においては、このような傾斜地からのスイング分析は、ゴルフを上達するうえで非常に大きな役割を果たすと考えます。私の過去の研究結果とも一致することですが、ローハンデキャップ群ではすべての斜面設定において、トップオブバックスイングの局面では左足への体重配分の移行が行われています。反面、ハイハンディキャップ群ではバックスイングの中盤からトップまで体重の配分に変化は見られません。このようなスイングの切り替えし場面における動作の違いは、スイングの質の違いとなって現れると考えられ、今後の研究の発展が期待されます。



引用文献
1) Peters, R., Smith, M., & Lauder, M. (2015). Quantifying the gradients exposed to a professional golfer during a round of golf. In F. Colloud, M. Domalain, & T. Monnet (Eds.), 33rd International conference on biomechanics in sports, University of Poitiers, France. (pp. 1153–1156). 
2) Blenkinsop, G. M., Liang, Y., Gallimore, N. J., & Hiley, M. J. (2018). The Effect of Uphill and Downhill Slopes on Weight Transfer, Alignment, and Shot Outcome in Golf. Journal of applied biomechanics, 34(5), 361-368.
3) Hiley, M. J., Bajwa, Z., Liang, Y., & Blenkinsop, G. M. (2019). The effect of uphill and downhill slopes on centre of pressure movement, alignment and shot outcome in mid-handicap golfers. Sports biomechanics, 1-17.
4) Okuda, I., Gribble, P., & Armstrong, C. (2010). Trunk rotation and weight transfer patterns between skilled and low skilled golfers. Journal of Sports Science and Medicine, 9, 127–133. http://www.jssm.org



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