ショット編 VOL.15

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)

●テーマ:スイング軌道は変えられるのか?
インターナルフォーカス(内部焦点) VS エクスターナルフォーカス(外部焦点)


 ゴルフ中継や雑誌で多用されている用語として「スイング改造」ということを耳にします。例えばあなたの歩行動作や文字の筆跡、お箸の使い方は、大人となり動作が定着している段階で変えようと思って変えられるものでしょうか?変えようと努力しても無意識になっているときには元に戻っていませんか。スポーツ科学の分野で長らく研究活動してきた中で、日本のゴルフ界で多用される「改造」という用語は他の種目ではあまり見聞きしたことがなく、耳にするたびに非常に違和感を覚えます。その他のラケットスポーツではスイングの変化、スイングの調整という用語は利用されますが、これは「一時期でのごく僅かな変化のことを指し、対戦相手や自身の体力面に適応することを含めた用語として使っている」意図が感じられます。また、スイング改造というイメージは自身の身体動作のみに焦点をあてる傾向にあり、必ずしもスイング改造が成功した例ばかりではないことも事実です。
 改造という言葉を使うか、調整という言葉を使うかは別として、スイングに明らかなエラーがあれば何らかの方法で改善しなければなりません。これは、度合いの差はあってもプロでもアベレージゴルファーでも同様にいえることです。今回はスイング軌道の修正にテーマを絞った内容をご紹介します。



インターナル・エクスターナルフォーカスとは

 古くから、運動学習ではインターナルフォーカス(内部焦点)とエクスターナルフォーカス(外部焦点)の研究が行われてきました。内部焦点とは、自分自身の身体運動に注意を向けて運動することを指します。ゴルフスイングに例えれば、「ダウンスイングでは右肘を閉めてわき腹にぶつけるように」などが自分自身の動きに注意をむけたインターナルフォーカス(内部焦点)に該当します。一方、外部焦点とはクラブやボール、腕の振り方など、動作の結果に注意を向けることを指します。それではスイング改造に適用されると考えられる内部焦点に対してインストラクターが指導を加えた場合と、外部焦点に指導を加えた場合では、どちらが元の動作からの変化が生じるのでしょうか?


ゴルフ指導における言語指導の興味

 アメリカPGAで25年以上の指導歴のあるインストラクターのうちでトップ100に選ばれている講師(Eric Alpenfels. Pinehurst Golf Academy)は、ゴルフ指導の中でアウトサイドイン(カット軌道)のスイング軌道の修正を行う場合、ダウンスイングではあなたの右サイドで右肘を落としなさい(内部焦点)と言語指導する場合と、ボールをコンタクトするにはインサイド・アウトのパスでクラブヘッドを振りなさい(外部焦点)と指導が分かれる例を報告しています。そして多くの指導が、前者のように自分自身の運動動作に向けた内部焦点の指導が多く、本来重要であるはずのターゲットにボールを打つという注視を与える指導が極めて少ないことを指摘しています(引用1)。



調査方法

そこで彼は、共同研究者と共に、45名の男性ゴルファー(HC 18.34±5.09)を対象に、言語教示によるスイングパスの変化について、内部焦点と外部焦点に対する合図の違いを比較する測定を行いました。
被験者を15名ずつにランダムにわけて、以下の方法で3回の測定(プレテスト、ポストテスト、再テスト)を行いました。残りの15名は自分の注意の焦点を利用し実験をしたため本稿では結果は省略しました。
・内部焦点グループ(ダウンスイングでは右サイドで右肘は落とす注視するよう合図を送る)
・外部焦点グループ(架空のアライメント棒を意識してインサイドアウトにクラブヘッドをスイングすることに注視するよう合図を送る)
被験者は自身の6番アイアンを用い、36球の練習打撃と36球の本番打撃を行いました。失敗試技もあるのでショット全体の30%が採用されました。スイングパスはビデオ解析を用い、ボール飛距離の計測にはFlightscopeを用いました(表1)。またティーアップした状態での分析も行うためドライバーで同様の測定が行われました(表2)。なお、ドライバーの場合は、12球目、24球目にはビデオでの動画フィードバックも行われています。



結果と考察

 この実験では、ハンディキャップに差がないようにグループ分けされたが、両グループともにプレテストにおいてアイアン及ドライバーの両方で約10度のアウトサイドイン軌道を示していました。アイアン、ドライバー両方の実験で外部焦点の合図を加えた場合に、プレテストよりスイングパスの角度が有意に小さくなり、ストレート軌道の傾向へ近づいたことが分かります。またそれは後日再テストをした場合でも同様の傾向でした。なお、ボールの飛距離ですが、内部焦点と外部焦点の間で有意差は認められませんでした。この飛距離に差がなかった原因として、内部焦点のグループの方がクラブフェースの中心でボールを捉えていた可能性があり、スマッシュファクター(ミート率)が良かったことを挙げています。今までのスイングとの変化が少なかった分、芯でボールを捉えやすかったのがインターナル(内部焦点)であり、スイングの変化は大きく効率的な軌道に修正できたにも関わらず、今までとの差が大きいためスイングの感覚が合わず芯でボールを捉えることが難しかったのがエクスターナル(外部焦点)ということもいえます。以上の結果から飛距離はほぼ変わらずとも、外部焦点の合図を与えることでより大きくスイングパス変容がもたらされることが明らかとなりました。しかしながらスイングパスの正確性及びストレート傾向がクラブフェースの中心でボールをインパクトするということを規定しているわけではないことには注意が必要と報告しています。もちろん、変化が継続的に維持されればスイング軌道がストレートに近くなった場合でも芯で捕らえることが可能になると考えます。


表1. 6番アイアンでのスイングパスの変化

6番アイアン(度) プレテスト   ポストテスト   再テスト
インターナル
(内部焦点)
10.49±10.83 6.74±10.29 5.82±9.26
エクスターナル
(外部焦点)
9.49±8.97

-0.61±7.44

-0.87±6.73

備考:正の値は、ダウンスイング角度がアウトサイドインのパス、負の場合はインサイドアウトであることを示す。
※通常の測定器では逆の表示となるが本研究では、アウトサイドインを正の値としている


表2. ドライバーでのスイングパスの変化

ドライバー(度) プレテスト   ポストテスト   再テスト
インターナル
(内部焦点)
12.86±12.61 5.66±7.28 6.47±7.97
エクスターナル
(外部焦点)
10.89±8.97

0.18±5.55

0.35±5.63



エビデンスGolf


実践への応用と示唆

 スイング軌道に絞っていえば、スイング改造と呼ばれるような大幅かつ長期保持的な変更を目指すのであればこれまで行われてきたであろう身体の動きに焦点を充てたインターナルフォーカスではなく、むしろ、アライメント棒などを利用して外部に焦点を充てたエクスターナルフォーカスの方が適している可能性がありました。逆に、些細な変更であればインターナルフォーカスを利用することで、これまでのスイングで慣れたクラブの芯でボールを打つ感覚を壊さず変更するのに適していると考えられます。アベレージゴルファーにとって練習は、質よりも量の方が大事であることは著者らの先行記事で示した通り明白です(引用2、3、4)。内部焦点と外部焦点での割合を考えることで、上達のための全体的な練習量が増やせる可能性があり、練習に向かう動機付けに繋がればと願っています。



引用文献
1) Christina, B., & Alpenfels, E. (2014). Influence of attentional focus on learning a swing path change. International Journal of Golf Science, 3(1), 35-49.
2) 書斎のゴルフ VOL.45 読めば読むほど上手くなる教養ゴルフ誌, (日経ムック), 日本経済新聞出版2020/1/17, 82-97
3) エビデンスゴルフ, VOL1, 練習時間.https://syosainogolf.com/school/crassic_01.html
4) エビデンスゴルフ, VOL2, 学習曲線.https://syosainogolf.com/school/crassic_02.html



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エビデンスGolf(ジュニア編)