エビデンスゴルフWEB版 ショット編 Vol. 16

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)

●テーマ:弾道測定器からみたフェース角度の重要性
プロはスイングスピードが速いにも関わらずフェース角度をスクエアにできるという謎


 様々な弾道測定器が発売されていますが、ボールの弾道(飛距離・軌道)だけではなく、同時にクラブのフェース角度、スイングパス角度などについてハイスピードカメラと同等のレベルで瞬時に結果が算出可能な時代となりました。また現在では最新鋭の弾道測定器が屋外の打撃練習場に常設されている場所もあり、スマホと連動して個人データを保存し、世界中のプレイヤーとの比較もできるようになりました。元来、この機器はクラブ開発者に多く利用されていましたが、現在では、幅広いプレイヤーに利用範囲が広がっています。それでは実際に、どのような項目が重要であるのかを探り、またプロとアマではどのような差異があるのかをみていきたいと思います。



初期打ち出し方向に最も影響するのか何か? ロボット vs 選手(人間)

 弾道分析研究について国際的に情報発信しているのはPING(ピン)ゴルフの研究者らであり、彼らは2つの代表的な研究を発表しています(文献1, 2)。まず、彼らはスイングロボットに7番アイアンをセットし、フェース角度を0, 2, 4, 6, 8度でオープンにした状態で、かつクラブヘッドスピードが41 m/sでインパクトするように設定した形で、弾道測定器(GC2)を用いて各々3回ずつデータを取得し、その時の初期飛び出し方向出玉の方向(角度)との関係性を調査しました。その結果、両者には強い相関関係が認められ、フェース角度がボールの初期飛び出し方向に対して、68%の説明力があることを導き出しました (図1)。次に、選手を対象に7番アイアンで745回の打撃を行わせた結果、フェース角度には69%の説明力があることが明らかとなりました(図2)。しかも、その説明力はドライバー(76%) > 7番アイアン(69%) > ウェッジ(61%)という結果で、よりボール飛距離が長くなるクラブになればなるほど、インパクト時にフェース角度をスクエアにして迎えることの重要性が高まることを明らかとしています。上記2つの研究結果は、7アイアンではロボット68%、選手(人間)69%とほぼ同等であった。この事実を考慮すると、ボールの初期飛び出し方向に対するインパクト時のクラブフェースの影響は、ドライバー(76%) > 7番アイアン(69%) > ウェッジ(61%)という実験結果は信頼するに値すると考えられます。


エビデンスGolf
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図1(左). スイングロボットにおけるフェース角度と初期飛び出し方向との関係性
図2(右). 選手におけるフェース角度とボールの初期飛び出し方向との関係性

競技レベルでクラブフェースの特徴はどうなっているのか?

次に、ゴルフ競技レベル(ハンディキャップ: HCごとの階層グループ)に対して、クラブフェースの動きにどのような特徴や差異があるのかを調べた研究があります(文献3)。275名の男性ゴルファーを対象に、7番アイアンとドライバーでそれぞれ5回のショットを行い、弾道測定器(トラックマン)で測定を行いました。なお、分析用に採用したデータはボールキャリーが中央値であったショットを選択し、競技レベルのHCに応じて以下のようにカテゴリー(グループ)を決めました。
Low: HCが4.5以下
Single: 4.6から9.9
Average: 10.0から18.0
High: 18.0以上



結果

クラブヘッドスピードは、HCが低くなればなるのほど、速い傾向がありました。それに応じて、ボール飛距離も大きくなっていました。一方、フェース角度はHCが低いほど、フェース角度の絶対値はより小さくなりかつ、その分散の割合(ばらつき)も小さい傾向がありました(図3)。なお、7番アイアンでのクラブの入射角に関しては、HCが低いグループほど負の角度の数値が大きいが、その入射角のバラツキは低い傾向にありました。一方でドライバーでは、入射角にはグループ間で数値の差異は殆どなかったが、バラツキはHCが小さいグループほど小さい傾向があることが確認されています(図4)。以上の結果を端的に表すと、低いHC(上手なゴルファー)のグループほど、クラブヘッドスピードが速くボールを遠くに飛ばすことができます。さらに、インパクト時のクラブフェースは、常にスクエアに近くバラツキも少なく安定しています。つまり、上手な人ほど「飛んで曲がらない」という当然と思われる結果を導き出しています。



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図3 (左): フェース角度とバラツキ(一貫性)に関するHCグループごとの比較
図4 (右): アタック角度とバラツキ(一貫性)に関するHCグループごとの比較

考察

 これらの結果から、優れたプレイヤーは速いクラブヘッドスピードでかつ、クラブのブレードをスクエアな角度でインパクトを迎えるという、一見すると相反する事項を同時に達成していることが理解できます。運動学の観点(フィッツの法則)からするとゆっくりとしたスイング動作のほうが、インパクトで楽にスクエアな状況を再現できると思われるが、実際はそうではなく、それがアマチュアゴルファーの深い悩みに繋がっていることも否めないといえます。いずれにせよ昨今の弾道分析器は、スイングスピードに関わらず、インパクトでクラブフェースのブレードを垂直に当てることが、いかに難しいことであるということを提示してくれたことは重要なエビデンスであると考えられます。


インパクト時のクラブフェース向きが重要という事実をどう考えるか?

 ここまでクラブフェースの重要性に関するエビデンスを確認してきましたが、それではスクエアにインパクトできない原因はどこにあるのでしょうか?もちろん原因は、人それぞれ多様にあり、とても一言で表せるような簡単なものではありません。しかしながら、原因を見つけるための因果関係(原因と結果)を説明することはできるかもしれません。つまり、結果としてのインパクトは、その前のスイングフェーズに原因があると考えることができます。アドレスからインパクトまでに、スイングフェーズは少なくとも5つあります(図5)。そのため、インパクト時のクラブフェースに問題がある場合、1つ前のスイングフェーズであるダウンスイングに問題があると考えます。次にダウンスイングに問題がある場合は、その前のスイングフェーズ、トップオブスイングに問題があると考えていきます。その次は、バックスイング、次にテークバック、そして、静止状態であるアドレス(グリップを含む)と遡って原因を見つける努力をするべきです。ゴルフに限らず物事がうまく進まない場合、意外と前提である条件に問題があることはよく知られたことです。ゴルフでは、スクエアなインパクトを迎えられない場合、前提となるアドレスとグリップに問題がある場合が多く散見されます。しかしながら、多くの場合アドレスとグリップは軽視されダウンスイングやトップオブスイングに因果関係を見出そうと苦労するゴルファーが多いのです。原因と結果の法則を理解する人であれば、ゴルフスイングでは、少なくとも原因の根源に近いアドレスとグリップの基本を見直すことを強くお薦めします。


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図5 アドレスとインパクトの因果関係概念図

引用文献
1) Wood, P., Henrikson, E., & Broadie, C. (2018). The influence of face angle and club path on the resultant launch angle of a golf ball. In Multidisciplinary Digital Publishing Institute Proceedings (Vol. 2, No. 6, p. 249).
2) Henrikson, E., Wood, P., Broadie, C., & Nuttall, T. (2020). The Role of Friction and Tangential Compliance on the Resultant Launch Angle of a Golf Ball. In Multidisciplinary Digital Publishing Institute Proceedings (Vol. 49, No. 1, p. 27).
3) Johansson, U., König, R., Brattberg, P., Dahlbom, A., & Riveiro, M. (2015, December). Mining trackman golf data. In 2015 International Conference on Computational Science and Computational Intelligence (CSCI) (pp. 380-385). IEEE.



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