エビデンスゴルフWEB版 ショット編 Vol. 17

【著者】樽谷恭明 (株式会社スポーツラボ, 日本プロゴルフ協会会員)
    鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)

●テーマ:競技ゴルファーは通常のショットとアプローチでのボール打ち出し角度が低い傾向がある


7番アイアンでの弾道の特徴

 ボール飛距離(キャリー)には、インパクト直後の「ボールスピード」,「打ち出し角度(ランチアングル)」、「スピン量」の要素が影響すると考えられています(引用1)。ボールスピードは速いほど飛距離が増大します。一方で、ランチアングルとスピン量は条件により最適値が存在します。今回はアイアンショットでの打ち出し角(ランチアングル)に焦点をあててショットでの飛距離と打ち出し角の関連性について掘り下げてみたいと思います。


 表1のデータは、日本プロゴルフ協会公認の弾道測定器SKYTRAK(スカイトラック)のホームページで示されている、アメリカツアープロの平均値を抜粋したものを示し(引用2)、また我々が屋内施設で測定した男子大学競技ゴルファー6名(平均ベストスコア:67.8)の平均値を加えた資料となっています。また図1は、同じくSKYTRAKで測定したアイアンショットにおける「ボールスピードと打出角度による最適バックスピン」との関係性を示しています(引用3)。一方でこのデータは「ボールスピードによる最適な打出角度」の範囲を示しています。


 表1と図1の内容をまとめると「男子プロよりヘッドスピードが遅い女子プロは打ち出し角が高い傾向にある」、「日本人大学競技ゴルファーのデータはPGA選手と大差がなく、能力が非常に高い」、「打ち出し角の範囲(Range)はボールスピードの階層(ヘッドスピードのレベル)においてその範囲はそれほど変わらない」と読み取れます。

表1. アメリカ男女ツアープロおよび男子大学競技選手の7番アイアンの平均データ

   ヘッドスピード(mps)  ボールスピード(mps)  バックスピン(rpm)  打出角度(度)  キャリー(yds)
 男子  40  54  7097  16.3  172
 女子  34  46  6699  19.0  141
 男子大学競技選手(日本)  40.4  53.6  5939  15.7  179.1


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図1.ボールスピードと打ち出し角による最適バックスピン

ちなみに、これらのデータで使用したクラブは選手個々のものですが、クラブのロフト角は女子選手の使用したものにおいて、その角度が大きかったとは考えにくいです。それゆえ、使用クラブが同じ場合でも、得られるデータの差が変動することは考えにくいと思われます。さらにシャフトのしなり特性における影響の有無を踏まえても、打ち出し角とボールスピードやヘッドスピードの関連性は先述した通りになると考えられます。



30ヤード以内でのアプローチショットでの弾道分析(ランチアングルに影響するものは何か)

 アプローチショットには、ウェッジのロフト角を生かしてボールを上げて、ボールを止めるピッチショットと、ピッチショットよりもさらにボールを高く柔らかくあげて打つロブショットがありますが、そのクラブや弾道の結果を比較した研究があります(引用4,表2)。この研究では韓国の女子ツアー出場権利を持つプロ11名を対象に、20mと30メートル先にある2mのサークルターゲットにボールが着弾した場合を成功試技として、ピッチとロブでそれぞれ5球成功するまで実施した場合の結果の比較をしています。
なお、測定項目は「両足踵の中央からの相対的なボール位置(cm)」「打ち出し角(°)」「ヘッドスピード(m/s)」「シャフト角(°)」「ロフト角(°)」「足圧分布」であり、Viconでの3次元動作解析によりデータ算出されました。


 30m先のターゲットの場合、打ち出し角はピッチショットでは47.3度でロブショットが57.1度であり、約10度の差が認められました。その際のヘッドスピードはピッチショットが15.5m/sでロブショットが17.1m/sでした。ロブショットでは、打ち出し角を高くするため飛距離が落ちる分、ヘッドスピードを上げることで距離を調整していることがわかります。


 クラブのシャフト角度は、ピッチショットでは、アドレス時で7.5°であり、インパクト時で17.6°とし、シャフトを飛球線側に倒す動きが観察されています。一方、ロブショットでは、アドレス時で3.8°であり、インパクト時で14.9°でした。つまり、ロブショットの方がシャフト角(ハンドファーストの度合い)を小さくしてアドレスし、インパクト時でのハンドファーストの度合いを大きくしないようにしていることがわかります。


 一方、クラブフェースのロフト角は、ピッチショットでのアドレス時では49.6度、インパクト時では、39.1度でした。ロブショットでは、アドレス時が57.0°、インパクト時が43.9度でした。つまりロブショットの方が大きいロフト角でアドレスし、インパクトでもその角度を大きくしていることがわかります。


 左右の足圧分布については、ピッチショットではアドレス時に左足に55.2%荷重しており、インパクト時には77.7%に増加していました。一方、ロブショットでは、アドレス時に52.0%荷重しており、インパクト時に75.0%増加していました。なお、ロブショットのほうが左足の荷重割合について有意に低い傾向が認められています。



表2.ピッチショットおよびロブショットにおける、ボールの相対的位置とボールの打ち出し角度およびクラブヘッドスピード

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これらの研究結果が示すこと

 ロングゲームと呼ばれる7番アイアンを用いたショットにおいて、アメリカツアーの男子選手の方や日本人大学生ゴルファーでは、女子選手よりも打ち出し角が低い特徴がありました。飛距離、スピン量、降下角度などを含めて、ツアーを戦うために必要なショットの結果として表れている打ち出し角が、男女それぞれのこの角度であると考えられます。

 ショートゲームである、30mのアプローチショットでは、韓国女子ツアープロにおけるピッチショットとロブショットの打ち分けでは、打ち出し角が高いロブショットの方が、インパクトでシャフト角が小さく、クラブのロフト角が大きく、ヘッドスピードを速くしていました。また、ロブショットの方が、インパクト時でも左足への足圧割合を小さくして右足体重の割合が大きい傾向がありました。


打ち出し角の傾向をどう考えるか

 ロングゲームにおいて、打ち出し角の適正はヘッドスピードが遅くなるほど高くなることが分かりました。しかし、一般ゴルファーの多くは女子選手と同程度のヘッドスピードであることが多いにも関わらず、打ち出し角が女子選手よりも大きくなる傾向にあるようです(これは、普段一般ゴルファーの指導中に測定しているデータを見て得ている印象です)。

 女子選手と同程度のヘッドスピードであるにも関わらず、女子選手よりも高い打ち出し角になっているのであれば、飛距離をロスしている可能性があります。昨今、ストロングロフトのアイアン(ロフト角が小さいアイアン)が多くの飛距離不足に悩むゴルファーから支持されていることも、「打ち出し角が適正よりも高くて飛距離をロスしている」ゴルファーが多いことを示しているといえるのではないでしょうか。

 このように、飛距離が思うように出ていない場合は、フィジカル的な問題だけでなく、インパクト時の打ち出し角が大きくなる事など、技術的な問題が起因していることも考えられます。ゴルフ歴が長くなり年齢を重ねて飛距離が落ちた場合、多くの人は体力が衰えたことが原因と考えますが、実はそれ以前からの技術不足で飛距離をロスしていたにも関わらず、ゴルフ仲間との比較に終始し、何が原因で飛距離ロスが生じているのかが顕在化しなかった場合が多いものです。

 韓国の女子ツアー出場権利を持つプロ11名を対象にした、アプローチショットの実験では、低い打ち出し角のショットでは、左足への荷重割合が大きくハンドファーストで小さいロフト角でインパクトをしていることが分かりました。

 ハンドファーストに対してハンドレイトのインパクト、つまりインパクト時にロフト角が大きくなるクラブの動きは、クラブフェースのスウィートスポットでボールをとらえた時にも飛距離をロスするだけでなく、リーディングエッジが浮くことで、クラブフェースとボールが十分にコンタクトしにくくなることも懸念されます。ピッチショットよりもロブショットの方においてハイリスク(ミスしやすい)が生じやすいのはそのためです。これはロングゲームでもアプローチでも同じです。

 仮に、様々なショットで適正値より打ち出し角が高くなってしまうようなプレイヤーでも、いずれは100というスコアを下回ったり、90を切ったりすることができるようになるかもしれません。しかしながら、可能性を決めつけずにゴルフ上達を望むのであれば、クラブごとの適正な打ち出し角に近づくようにスイングを調整して取り組むことは、長いゴルフライフを考えても非常に意味あることになるでしょう。

 多くのゴルファーはアプローチショットでは打ち出し角が大きく、リーディングエッジが浮きやすいスイングをする傾向にあります。対して、プロゴルファーはアプローチショットで、左右の足圧荷重割合などを調整しながら、インパクト時のロフト角やシャフトの角度を環境の状況に応じて自在に変化させています。

 我々はこの状況に応じたアプローチショットにおける打ち出し角度が、スキルレベルの異なる群で同じ環境条件を与えた場合に、大きな差異がみられるのではないかと考え、今後、コースにて検証していきます。


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引用文献
1) 浜田明彦. (1996). ゴルフボール. 日本ゴム協会誌, 69(4), 254-264.
2) PGAツアー選手平均データ
3) ボールスピードと打出角度による最適バックスピン
4) Kim, J., Youm, C., Son, M., Lee, M., & Kim, Y. (2017). Golf club characteristics and vertical force distribution associated with pitch and lob shots of different carry distances. International Journal of Sports Science & Coaching, 12(4), 540-548.



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