エビデンスゴルフWEB版 ショット編 Vol. 19

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)

●テーマ:ハンディキャップの減少にはヘッドスピードが寄与する
ヘッドスピードは速い方が良いが、その手段は様々存在する


はじめに

ゴルフ競技の特徴として、飛距離が出なくてもそれ以外のことでカバーすることができ、何も飛ぶ人が必ずしも一番になれるわけではないと考えられています。PGAツアー82勝という未だ歴代1位の記録を持つサム・スニード(1912~2002年)は、「ゴルフのスコアの60パーセントは125yds内で打たれたものだ」としてショートゲームの重要性を説いた。また、パッティング研究者のデーブ・ぺルツも、どのレベルのゴルファーであれ「スコアの43%をパッティングが占める」と分析している。日本においては、優勝回数113回の世界プロツアー最多優勝記録を持つ尾崎将司プロは「飛距離はファーストアドバンテージ」と語り、厳しいプロの世界では飛距離を出すことで他の選手より優位に立てるとしている。一般的に飛距離を出すうえで重要なのがクラブヘッドスピード(Club Head Speed: CHS)と考えられている。ドライバーではCHSが1m/s上がると芯に当たったとして5~6ヤード飛距離が伸びるとされている。本項では、クラブヘッドスピードとゴルフハンディキャップ(Handicap: HDCP)の間にどれくらい相関関係があるのかを調べました。2004年当時のオーストラリアでは、ゴルフは、全人口の約何百万人もの人々が楽しむ人気のスポーツで、オースラリア成人のスポーツ活動としては、水泳、エアロビクスに次ぐ三番目に多い参加率であると論文内で報告されています。そんなゴルフ人気の高いオーストラリアの研究グループがJournal of Science and Medicine in Sportsに発表した「How well does club head speed correlate with golf handicaps? クラブヘッドスピードはゴルフハンディキャップとどれくらい相関関係があるのか?」という論文を中心に考察を行います(文献1)。

方法

対象者:男性ゴルファー45名、年齢の範囲18~80歳
HDCPの範囲2~27、13名(HDCP2~10):14名(HDCP11~20):18名(HDCP21~27)

実験参加者は自身が普段使用している5番アイアンを使って屋内施設にて10回のゴルフスイングを250コマでビデオ記録した。ノーマルなストロークで可能な限り正確に打つように指示され、打球と打球の間は疲労の影響を考慮して1分の休憩を取りながら測定しています。実験は屋内の施設内のネットに向かって打撃し、高速カメラとビデオエキスパート2というソフトを使用し10回打撃した際のCHS平均値を算出しています。

結果のまとめ

Figure1の各点は、各ゴルファーの10回のスイング時のCHS平均値を表しています。ハンディキャップが少ないゴルファーが、より速いクラブヘッドスピードを有することを示しています。つまりハンディキャップの多いゴルファーはクラブヘッドスピードが遅いといえます。Figure2ではCHSを自然対数に変換し、HCとの関係性を調べると、さらにきれいな負の相関関係が認められていました。

エビデンスGolf

エビデンスGolf

ヘッドスピードが速い方がハンディキャップは少ない

この結果よりCHSで自身のHDCPがどのくらいになれば妥当なのかがわかります。例えば、ヘッドスピード40m/sくらいの方は、HDCPが10以内になる確率は多くあります。対照的にCHSが35m/sくらいの方では、今のCHSのままではHDCPが10以内にすることが難しいということがわかります。自身のCHSに対してどの程度のHDCPが妥当なのかがわかることによって練習のテーマがより絞りやすくなります。目標とするHDCPに対して必要以上に飛距離を求める必要もなくなります。逆に、アプローチやパットに課題を感じている方でも実際はCHSが不足している可能性もあります。このグラフを見る限りCHSが速くなればなるほどHDCPを減らせる可能性があります。したがってどのレベルにいようとCHSは常に意識し、維持または向上に努めていかなければ、CHSは何もしなければいつかは落ちてしまいます。むろんCHSは、身長のようなものである程度の努力をした方であれば、身体資源の限界に近いスピードに達してしまい、それ以上はなかなか伸びません。しかし、指導者としての経験から多くのゴルファーは、身体資源の限界より2~3m/sくらいは遅いスピード振っており、CHSを意識するだけで向上する例を何度も見て来ています。まずは自身の現状のCHSを理解することから初めていただきたいと思います。

CHS向上方法(短期的:一過性)

CHSが速い方がHDCPを減らすのには有利なことが理解できました。では、どのようにCHSを速くしたら良いのかが問題となります。様々な方法の中でまだあまり紹介されていない方法を紹介します。ひと昔前に流行したレコーディングダイエットのCHS版である。つまり、特に特別なことをしなくても、練習のたびにCHSを計測し、記録するだけで意識改革になりその値の向上を狙う方法です。ここでの注意点としてCHS計測器はいつも同じ機種のものを使用し、測定値を信頼できるものにしていただきたいと思います。測定器は機種やメーカーによって多少の誤差があるので、測定器が変わってしまってはデータの信頼性がなくなります。練習の度に、計測をおこない自分流に、日々のCHS向上のためにおこなったトレーニングやCHSが上がった時の動感や気温などの環境及び状況、また、気持ちや疲労度合いや練習球数など関係のなさそうなものまで記録すると自分だけのオリジナルなCHS向上方法の発見につながり、よりゴルフを楽しいものにしてくれるといえます。

CHS向上方法(長期的:継続性)

CHSを安定的に向上したいなら、ベンチプレスのような上肢の筋力値を高めることが有用です。20名の国内大学トップリーグに所属する大学男子競技ゴルフ選手を対象とした研究では、ベンチプレスの最大挙上重量 (Max BP)がCHSの77.0%を予測できることが明らかとなっており、CHSは大胸筋群の筋力の強化による貢献度が高いことが示唆されています(文献2)。また近年、プロゴルファーも多用する牽引型のハイスピードトレーニング機器で測定される各数値ともCHSは高い相関関係を示しています(下記図参照)。つまり、軽い負荷でのベンチプレスでは挙上速度、重い負荷の場合では挙上重量の向上に重点をおいてトレーニングすることでCHSは確実に向上するはずです。
以下CHS推定式: CHS = 40.912 + (0.134 × Max BP)
仮にMax BPが50kgならCHSは47.612 (m/s) という結果になります。

番外編

例えば、先に示した大学生を対象とした研究では、彼らはほぼ同じ生活習慣を有しています。細かく説明するとタイムスケジュール(学校スケジュール)、食事(寮での生活)、トレーニング(部活)、体格(アスリートとしての健康管理)など健康面が統制された集団であるのでデータの平均値にある程度の妥当性が担保されます(データのバラツキも小さくなる)。それでは一般のゴルファーはどうでしょうか?ストレス度合いの違う仕事、食事、睡眠時間、私生活、健康習慣(服用する薬があるorない)等々が存在し全く質の異なる集団となります。つまり、後者の運動能力を診断する場合では考慮すべき点があまりにも多すぎるため、データの妥当性を評価する時には非常に注意が必要です。
特に中高年では生活習慣病により、様々な処方薬を服用している場合やサプリメントを摂取している方が存在します。リクリエーションレベルでのラウンドでは、ドーピングコントロールを意識していない人が多いですが、風邪薬や漢方など総合感冒薬に含まれるエフェドリンは中枢興奮作用があり、ヒトの交感神経機能を向上することに寄与するためCHSを一過性に高める可能性は存在します(なお研究倫理の観点からそのような報告は今のところ存在しない)。一方、高血圧・心疾患(心筋梗塞や狭心症等)を有する方が服用するβブロッカーなどは交感神経活動を抑制し心拍数や血圧を低下させるため、不安解消やあがりの防止、あるいは心身の動揺を少なくするとの指摘があります(WEB引用1)。特にアーチェリーや射撃のように精神統一を必要とするターゲット型スポーツでは、上腕の振戦(ふるえ)の防止や緊張時にもスムーズな動作が遂行できることに繋がる可能性があるといえます。つまりゴルフであればパッティングやティーショットでの動作安定性に寄与する可能性が高いため禁止となっていると推察します。その他、気をつけるべき問題点について、日本ゴルフ協会では、プロから学生ゴルファーにいたる競技において、安易な使用やうっかりドーピングに対して注意を促しており、厳しい措置を提示しています。競技ゴルフに関与する指導者・選手・保護者は最新の情報をよく理解しておく必要があるでしょう。

結論

以上のことから、過去のオリンピックでも問題になってきたようにCHSを何としても上げたいということであれば、様々手段があるということです。我々人間は普段の生活からどのようなトレーニングをし、何を食し、ゴルフラウンドに向かうかは個人の自由です。しかしながら、個人の有する既往症のためとはいえ、ドーピングコントロールに該当するような薬を服用している人は、たとえアマチュア競技であってもフェアにスポーツを行っているとはいえません。またそのようなプレイヤーはラウンド中や練習中に突然体調が悪くなる可能性もあるため注意が必要です。それゆえ、医師から生活習慣病に該当するような薬を処方されている場合は、その内容を包み隠さず同伴者や指導者にその旨を伝えておき、健康面に無理のない範囲でプレーする必要があります。また酷暑や極寒条件でのプレーを避け快適な気象条件に運動することを推奨したいと思います。

引用資料
1. Fradkin, A. J., Sherman, C. A., & Finch, C. F. (2004). How well does club head speed correlate with golf handicaps?. Journal of Science and Medicine in Sport, 7(4), 465-472.
2. 一川 大輔, 山口 郁弥, 高田 基希, 宮澤 太機, John Patrick SHEAHAN, 奥田 功夫 (2019)大学男子競技ゴルフ選手におけるクラブヘッドスピードを基底するウェイトトレーニング変数の検討、スポーツパフォーマンス研究 (11) 361-371.https://sports-performance.jp/paper/1910/1910.pdf

WEB引用
1. 日本ゴルフ協会: JGA (2022)、アンチ・ドーピングについて



監修および測定協力施設
店舗名: The蔵ssic
住所: 栃木県宇都宮市河原町1-34
電話番号: 028-632-3636

店舗名: 駒沢ゴルフスタジオ
住所: 東京都世田谷区駒沢2-16-18 ロックダムコートB2F
電話番号: 03-5787-6936



≫連載「エビデンスGolf」目次はこちら



エビデンスGolf(ジュニア編)