エビデンスゴルフWEB版 ショット編 Vol. 20

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)

●テーマ:打つ時の視点はどこを見て打ったら良いのですか?
ボールへの視点を変えると結果が変わる


まえがき

ゴルフを始めてから少し経つとよくある質問の一つとして「打つ時にボールの視点はどこを見て打ったら良いですか?」と尋ねられることがあります。対照的にまったくの初心者や熟練者からは同様の質問はあまり尋ねらないことが指導者としての経験上わかります。それは初心者の運動発達の段階においては、おそらくグリップの仕方やアドレスの手順、ボールの位置やアドレスの姿勢など注意を払うことが多く、ボールのどこを見たらよいのかという洞察する余裕がないからかも知れません。逆に熟練者の場合は、ボールのどこを見ているのかを尋ねると多くのの場合は、「ボール全体」「ぼんやりと」など凝視に関して明確な回答は得られなくなる傾向にあります。
このようにボールのどこを見れば正解なのかは、明確な正解はきっとないとは考えられるが、ボールの見方だけで、ボールの行く先である結果が改善される可能性について真面目に研究した論文が存在します。本項で紹介する論文は、そんなボールの凝視点に介入しただけでボールの落下地点の精度が改善される可能性を示した内容である。しかも研究参加者が1名というシングルケーススタディという分析方式を採用している。そのタイトルは「Using visual guidance to retrain an experienced golfer’s gaze: A case study.熟練ゴルファーの視覚誘導を利用し凝視を保持した場合の事例研究」であり、現場実践での応用価値が高いと考えられ、「ヨーロピアンジャーナルオブスポーツサイエンス」という由緒ある雑誌において2017年に発表されている。

方法

実験参加者:1名:22歳の男子大学生、ハンディキャップ4、ゴルフ歴14年
大学ゴルフ競技会や国際競技大会に参加経験あり
エキスパートゴルファーに分類されるレベル

測定手順

スイング時の凝視点をレーザーポインタによる教示を与え指導することで、ボールの最終落下地点の結果と個人の視点(Eye-XGトラッキンググラス使用)がどのように変化するのかを調査した。人工芝上から5アイアンで200ヤード先に設置した10×10ヤードのグリッド目標に向かって、以下の4つの手順を経ながら、各50球打撃させた。実験設定は以下の図1の通りである。

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ベースラインステージ:(Baseline)

測定者は参加者が打ったときの凝視点を1打毎に記録した。またグリッド上の着地点も記録した。50回打撃終了した後に、測定者は参加者に記録した結果を提示し、互いに情報共有した。これにより、参加者は自身の凝視点と落下地点の結果には潜在的に関係性があり、自分の意図とは結果が矛盾していることを理解することができた。

介入ステージ:(Intervention)

次はレーザーポインタでボールの上部後方を赤色で照らし、参加者の凝視点をその点に合わせるように測定者が言語教示し、その後ベースラインと同じ方法で36回打撃させた。参加者には打撃タイミングや凝視点の状況に関する情報を一切与えなかった。仮に参加者の凝視点が正しい場合でもフィードバックを与えなかった。

介入段階のフェードアウトステージ:(Phasing-out)

測定者は凝視点の向け方について1打毎の言語フィードバックを与え、10試行を行った。その次の10試行では2試行に1回, 次の10試行では3試行に1回、その次の10試行では4試行に1回と徐々に指導の回数を減らして行った。最後の10試行は完全に指導のない状況で打撃させた。

保持確認ステージ(Retention)

先の局面から1週間の時間を取り、参加者が適切な凝視点ポイントの学習を習得しているのかを確認するため、レーザーポインタでのガイドと言語教示のフィードバックがない状況で、30球の打撃を行わせた。

結果

研究参加者の介入前のエラーパターンは、フェードヒッターでボールは左から右に曲がるボールを打っていたと記されていた。ベースラインステージ(Baseline)の打球結果をみると、打球は右側に多く分布している。この時の凝視点をみると、ボールの右手前に集中していたことが確認できる(図2上段:BaselineのA,B,C)。この習性を図1右図のBのようにレーザーポイントを使って凝視点をボールの真後ろに変える為にトレーニング介入をおこなっていった。介入ステージ(Intervention)では、ボールの凝視点は、右手前からの改善がみられた(図2中段:InterventionのB,C)。徐々にレーザーポインタの使用を排除していった介入段階のフェードアウトステージ(Phasing-out)では、元々の習性であった右手前をみることがほとんどなくなった。1週間後にまったくレーザーポインタ使用しないで行った保持確認ステージ(Retention)においては、ボール落下地点の結果及び凝視点の分布範囲が小さくなった(図2下段、RetentionのA,B,C)。

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活用法

エキスパートゴルファーだったから効果があったのか?アベレージゴルファーではどのような結果になっていたのかは、今回の実験ではわかりません。しかしながら、1人に限定した実験参加者ではあるが、正しいシングルケーススタディの研究プロトコルを導入しており(ABA介入方式)、この結果は事実といえます。今回の結果は、一般ゴルファーにとっても大いに参考にしてほしいと思います。その理由として、実際の指導現場ではボールの見方に意識を置かせることでスイング技術をコントロールし、改善に導く指導をおこなっているティーチングプロも多く、指導現場では比較的容易にスイング改善ができる方法として古くから採用されています。今回の研究エビデンスと我々の指導経験から、ティーチングプロ達のボールの見方に関する指導方法の概念を以下の図3にまとめておきます。今回の実験では、ボールの落下地点を評価の対象にしていましたが、指導現場での多くの意見は、ボールの見方は「スイング軌道」と「入射角」の二つに影響を与えるだろうと考えられています。つまり、ボールの右側さらには右側面地面側を見るほどにアッパーブロー、左側を見るとダウンブローになりやすいと考えられます。この図では右上側とみるとアウトサイドイン、右下側をみるとインサイドアウトになりやすい。したがって今回の実験参加者は右下側を凝視していたためインサイドアウトのスイング軌道だったのではないかと推測できます。

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引用資料
Bishop, D. T., Addington, N., & D’Innocenzo, G. (2017). Using visual guidance to retrain an experienced golfer’s gaze: A case study. European journal of sport science, 17(2), 160-167.



監修および測定協力施設
店舗名: The蔵ssic
住所: 栃木県宇都宮市河原町1-34
電話番号: 028-632-3636

店舗名: 駒沢ゴルフスタジオ
住所: 東京都世田谷区駒沢2-16-18 ロックダムコートB2F
電話番号: 03-5787-6936



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