ジュニア(小学校期)編~身体リテラシーの育成 Vol.3

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)

●テーマ:子供のメンタルヘルスに好影響を及ぼす運動の効果
「週1回3ヶ月のゴルフ実践でこどものレジリエンス(立ち直り力)は高まる」


 近年、国内でもゴルフと健康の関係性について、様々な雑誌等やメディアで読み聞きする機会が増えましたが、それらは、ただ著者らがゴルフの健康への貢献度を感覚的に記述しているわけではなく、世界中で公開されているエビデンスを系統的(性質、特徴、量)にまとめた論文(総説)を起点として情報が報じられています。



ゴルフはストレスや不安を軽減し社会との関係性を構築する良い機会となる

 Murrayら(2016)は、ゴルフと健康に関して24カ国9つの言語により発行されている4944の研究論文を集約し、それらのうち301本の論文を系統的に怪我・身体的健康・身体活動量・精神的健康・その他に分類し、分析を行いました(文献1)。
その結果、ゴルフが精神的健康度に与える好影響を報告した29本の論文では、ゴルフがストレスや不安を改善すること、また自己やグループのアイデンティティを向上することや社会との関係性を再構築する機会となることを指摘しています。
さらには自己効力感や自信、感情のコントロール、新鮮な空気と太陽を浴びることによる潜在的なウェルネスの改善がもたらされるとしています。
今後は、若年者より活動量が低下する中高年における筋力や平衡性、さらには転倒予防の観点で有益であるとする研究が増えていくのではないかと予想しています。



ゴルフは子どもたちの問題解決力や自己効力感の育成に効果がある

 子供(ジュニア)では、大人と違い運動介入の結果が見えにくい側面がありますが、ゴルフが子どもたちのメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすのかを調査した研究があります(文献2)。
この研究では、ドイツに暮らす男女50人の子どもたち(平均年齢10.32歳)を対象に、ランダムにサッカー群(統制群)とゴルフ群(介入群)の2群に分けて、1学期間を利用して、どちらかのスポーツを1回90分で計3ヶ月間実施しました。
またその学期での開始時(プレ)と終了時(ポスト)でそれぞれレジリエンスの心理尺度調査を行いました。
レジリエンスとは、逆境や悲劇、家族や人間関係の問題などによる重大なストレスに直面した場合からの心理的な回復能力を指します。近年、日本の学校教育の現場でも注目を集め、小学生を対象とした研究もおこなわれています。

 その結果、ポストではゴルフを行い運動介入した群ではレジリエンスが有意に大きく高まり、サッカーを行った群ではレジリエンスが低下している傾向でした(図1)。
なお、群と時間の要因には交互作用が認められており、サッカーの結果に関する解釈は一般化できないことは追記されています。
このような結果になった理由としてゴルフは個人のレベルや特徴に応じたアプローチが可能であり、問題解決力や自己効力感の育成に効果的であったのではないかと推察しています。
また直接相手と対峙するスポーツではなく、リスクが小さいので目標設定を行いやすいため、レジリエンスの向上に寄与したのではないかと考察しています。



エビデンスGolf(ジュニア編)



 以上の報告から、ジュニア(小学生)の時期は、競技結果にとらわれることなく、心理面への好影響にフォーカスして大人は子どもたちを見守ることが肝要といえます。
またゴルフでは前編で述べたように身体リテラシー(自己の運動に対する気づき)も重要であり、体を正しく動かせることは最終的には自分を大切にすること(自己愛)にも繋がるため、人生100年時代を迎えた現代において、あらゆる世代において無くてはならないスポーツに成熟することを願っています。




文献1) Murray, A. D., Daines, L., Archibald, D., Hawkes, R. A., Schiphorst, C., Kelly, P., & Mutrie, N. (2017). The relationships between golf and health: a scoping review. Br J Sports Med, 51(1), 12-19.
文献2) Schulze, C. (2019). Effect of playing golf on children's mental health. Mental Health & Prevention, 13, 31-34.




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