ジュニア(小学校期)編~身体リテラシーの育成 Vol.4

【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
    一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)

●テーマ:各年齢局面における最適なパフォーマンス軌跡
「選手とコーチは長期的なキャリア曲線を理解することで頂点を目指せる」


ゴルフ、サッカー、野球他は後期専門家スポーツ14歳までに他のスポーツで身体リテラシーを習得

 前編までは、小学校時期での競技成績に拘る必要のないことを説明してきました。
これは日本国内だけの問題ではなく諸外国でも同じ問題を抱えています。
ゴルフ競技での早期専門化に対する問題に対して、カナダPGAでは2006年から長期育成プログラム (Long Term Player Development: LTPD) を作成し、いち早くこのような問題に対して調査研究を行っています。
様々なアスリートの長期育成法に関する研究者であるカナダのIstvan Balyi博士は、2017年にカナダのゴルフ協会公式ホームページ内で「マルチスポーツ選手であることの利点」について説明しています。
例えば、体操やフィギュアスケートなどの一部の競技では早期専門化の必要はあるが、ゴルフ、サッカー、野球などは後期専門化スポーツであり、最終的な青年期に最高レベルの選手を目指すならば、14歳までに他のスポーツも実践すること(デュアルスポーツ)で身体リテラシーを身につけるべきであると述べています(引用1)。



女性に比べ男性の方がより時間をかけてメジャーツアーで結果を出す傾向

 また2006年に始まったカナダでのLTPDは、2014年にはこれまでに行われてきた調査や研究をもとに再編集され、新たなトピックも提示しています。
このLTPDガイドには、過去10年間の調査でトッププレーヤーに辿り着くまでの最善のパフォーマンス軌跡(道のり)について男女別に報告しています(引用2, 図1)。
赤い線は、過去10年間にトップランクに配置されツアーで優勝した経験のあるプレーヤーの平均的な進度状況を示しています。
両側の白い点線は代表例の範囲を示していますが、コーチや選手らはこの白い範囲内で徐々に成長することを目指すべきでしょう。
この代表例に示されているトッププレーヤーに到達した選手でも男女ともに14歳ぐらいまでは、地域や地方の大会に出場するくらいの競技レベルであり、15歳前後でエリートジュニアイベントに出場する程度ですので、日本でいえば全国大会出場あたりのレベルと考えられます。
男性では、プロ転向 (Turn PRO) が22歳、女性では19歳と比較的低年齢でのプロ転向となっています。
これは、日本と違いプロテストに合格した年齢というよりは、アマチュアの試合に出場せずにプロの試合にチャレンジした年齢であるためと考えられます。
男性のメジャーツアーでの優勝は32歳、女性では26歳であり、この局面では男女差がさらに広がる結果となっており、女子に比べ男子の方がより時間をかけて結果を出す傾向があることを示しています。


エビデンスGolf(ジュニア編)

エビデンスGolf(ジュニア編)


図1 男女別パフォーマンスの軌跡 引用2より改変



トッププレイヤーを目指す男性は大学、女性は高校の時期で技術面に加え競技での結果が大事になる

 以上の報告から、男性では大学生の時に世界クラスの大会に出場する程度の腕前が必要となり、女性では更に早く高校生で世界大会レベルの腕前が必要となるのがツアーで優勝できる様なトッププレーヤーになるための条件といえそうです。
このように考えると時間はあるようでないのが現実ですが、コーチや選手はこの競技キャリアの発達曲線に関して相互に理解しておくことは重要と考えられます。
実際に男性は大学生の時期、女性は高校生の時期で技術面に加え競技成績でもかなりの伸び幅を要求され、この時期に世界レベルに達したものがツアー優勝に繋がっているのでしょう。
それゆえ、この時期の急成長に対応するための基礎的な体力要素を事前に備えておく必要があるのです。
それは、冒頭述べたように早期専門化では決してなし得ず、14歳ぐらいまでに他のスポーツも経験するなかで様々な運動能力を養っておくことが重要といえます。




引用1) The benefits of being a multi-sport athlete(Long Term Player Development Guide: LTPD), https://golfcanada.ca/article/why-your-kid-shouldnt-just-play-golf-the-benefits-of-being-a-multi-sport-athlete
引用2)Long Term Player Development Guide (2014). pp14~15, Version 2.0, Developed in partnership with the PGA of Canada.




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