動作1: MBサイドスロー(右サイド)
ジュニア(小学校期)編~身体リテラシーの育成 Vol.9
【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)、
一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦(The 蔵ssic)
●テーマ:ジュニアゴルファーでのフィールドテストのポイント
「重い物(メディシンボール)を遠くに飛ばせる方法を正しく理解し身につけよう」
前回は、成長期にあたりユース世代の子供では、自分の主観的努力度(運動負荷に対する出力度合い)を捉えることが難しいという話題を示しました。特に複数人の子どもたちを指導する場合は、ひとりひとりがどれだけの出力でどれくらいの量のトレーニングをこなしているのかを記録するのは極めて困難です。そのため、定期的に子どもたちの体力測定(フィールドテスト)を行い、それらを楽しみながら正しく実践することは重要といえます。
日本の学校体育ではフィールドテストのことを体力診断テストと呼び、全国規模で中学生まででは統一した内容を継続的に測定します。これは国際的にみても極めて異例で、筆者が非常勤講師として授業担当した経験がある東京大学では、前期教養課程の1年生(約3,000人)を対象とし、1,960年代に入学した学生から現在に至るまで4月と12月の合計2回を必修のスポーツ実技科目の中で測定を行い、その結果を書籍やWEBで公開しています(WEB資料1)。
その結果をみると、毎年の春(入学直後)に測定する腕立て伏せの回数は男女とも低い傾向にありますが、冬(12月)にはその数値が改善していることが分かります(WEB資料1, 右図)。一方、垂直跳びの値の推移をみると、男子学生の平均身長が年々伸びているにも関わらず、約50年間スコアはほとんど変わっておらず、しかも春から冬にかけても変化がほとんどみられていません(同左図)。つまり、上肢の筋力は体育授業を含む運動習慣により改善し易いが、下肢はその改善が難しいということが分かります。まさに「脚は第2の心臓」といわれるように、現代人特有の座り過ぎによる下肢筋力(筋肉量)の低下を抑制することは、ヒトにとっての永遠の課題といえそうです。
ジュニアゴルファーにおけるフィールドテストは、アメリカ合衆国で行われており、36名の男子高校生(13~17歳)を対象とした結果が報告されています。表1には彼らの平均身長、体重、自身のドライバーでの3球でのクラブヘッドスピード(CHS)の平均値、垂直跳、立幅跳、座位でのメディシンボール(MB, 3kg)の片手投げ(左右)、立位でのメディシンボール(MB)の両手投げの左右側それぞれのスコアを示してあります。なお、HCの平均値が1.8±2.4(最大5.4, 最小-3.0)と極めて高いことから、競技力の高さと被験者のリクルーティングがしっかりとした測定であることが伺えます。
表1. アメリカ男子高校生ゴルファーのフィールドテスト結果
身長 (cm) | 体重 (kg) | HC (strokes) | CHS (m/s) | 垂直跳(cm) |
176.7±7.1 | 68.5±8.5 | 1.8±2.4 | 46.8±7.5 | 32.5±8.0 |
立幅跳(m) | 座位MB左(m) | 座位MB右(m) | 立位MB右(m) | 立位MB左(m) |
2.1±0.2 | 3.9±0.8 | 4.5±1.0 | 8.2±1.8 | 8.3±1.9 |
一方で、筆者は、日本男子大学生ゴルファー14名を対象に8週間のメディシンボールトレーニング (主要5種目, 追加5種目: 週2回,各約90分間) を実施し、その前後において同じく3kgのMBでの投距離を測定した結果を発表しています(資料3)。表2に示すように、4種目のMBスロー投距離の平均値は8週間で全ての種目で10m以上を超える記録を出せるようになり、有意な変化が認められました。一方で、CHSが増加するような変化は認められませんでした。つまり、MBトレーニングによるゴルフショットパフォーマンス(CHS)は、事後時点では効果は現れなかったが、今後の基礎となる全身を使った身体機能が得られたことが分かります。
表2. 日本男子大学生ゴルファーのフィールドテスト結果
身長 (cm) | 体重 (kg) | HC (strokes) | CHS (m/s) | |
プレ: 1週目 | 172.3 ± 4.4 | 67.3 ± 9.8 | 6.4 ± 4.7 | 44.5 ± 2.6 |
ポスト:8週目 | 45.1 ± 2.2 | |||
前投げ (m) | 背面投げ (m) | 立位MB右(m) | 立位MB左(m) | |
プレ: 1週目 | 9.1 ± 1.4 | 9.3 ± 1.4 | 8.8 ± 1.7 | 8.8 ± 1.4 |
ポスト:8週目 | 11.8 ± 1.3⇑ | 12.8 ± 1.4⇑ | 11.9 ± 1.4⇑ | 11.6 ± 1.3⇑ |
このようにMBトレーニングはアスリートの筋出力を評価する上で有用でありますが、その運動様式に注目してもらいたいと思います。この投動作を習得することにより、運動動作を行う上で最も重要である下肢筋力が発揮する運動エネルギーを末端(手先)へ伝えるための「運動連鎖」を正しく習得することが可能となり、ひいては正しいゴルフスイング動作へつなげることが出来ます(動画1, 動画2参照)。
例えば、重いボーリングの球を想像して下さい。何も意識せずボーリングの穴に指を指して持ちましょう。そしてこれを手首の力だけで投げたとしたらどうなるでしょうか?当然怪我のリスクが生じます。一方、MBのようにかなり重量のある物体であっても、手指や腕の力を使わずやさしく両手で保持し、下肢から体幹への捻転動作や、股関節の屈曲伸展動作を正しく使って投げれば、その物体を高く・遠くに投げる(飛ばす)ことが可能となります。
この動作は、ウェイトトレーニング(WT)におけるクリーンやスナッチ、デッドリフトなどの動作と共通する部分が多くあり、WTを実施する前の小・中・高校生にとって必須のトレーニング方法といえます。これは過去の一流アスリートの多くが実践し、様々なスポーツ種目へ応用可能であることからあらゆるスポーツ選手にとって普遍のトレーニング手段であり続けることはいうまでもありません。今や1~3kgのMBはインターネットを通じて千円台で購入できるようです。広い公園があれば、すぐに実施可能です。まずは親子で気分転換も兼ねて実践するのも検討したいものです。
動作2: CHSの測定
参考文献
1) 体力測定-東京大学身体運動科学研究室, https://idaten.c.u-tokyo.ac.jp/educ/ft_test.html(2020/7/28 閲覧)
2) Coughlan, D., Taylor, M. J., Jackson, J., Ward, N., & Beardsley, C. (2020). Physical Characteristics of Youth Elite Golfers and Their Relationship with Driver Clubhead Speed. The Journal of Strength & Conditioning Research, 34(1), 212-217.
3) 8週間のメディシンボールトレーニングが投擲距離とゴルフパフォーマンスに与える効果 (2014). 一川 大輔, John Patrick Sheahan, 奥田 功夫, ゴルフの科学, ゴルフの科学, 26, (2) 1 – 12.