エビデンスゴルフWEB版 ショット編 Vol. 18
【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)
●テーマ:ロングドライブディスタンスに向けたエビデンスとメカニズムに関する知見
1. 飛距離と正確性は相反するのか?
ドライバーでの飛距離(ボール飛距離:キャリー)は、ボールインパクト直前のクラブヘッドスピード(CHS)との間に強い相関関係があり、CHSの高さが重要な要素となります(Fletcher and Hartwell, 2004, Humeほか., 2005)。それでは単純な質問ですが、飛距離が長くなると、左右のブレ(精度:Accuracy, Offline)は大きくなるのでしょうか?このエビデンスの答えは逆でして、図1の左図が示すように、プロ群の方がキャリーした位置が遠く、その分散がフェアウェイの中心に収束していることがわかります(Broadie,2008)。その理由として、遠くに飛ばすことのできる人は、良いスイングをしているため、その精度も高くなることが理由として挙げられています(到達点が遠いにも関わらずアマより精度が約2倍高い)。これはショット編のNo.16(プロはスイングスピードが速いにも関わらずフェース角度をスクエアにできるという謎)で紹介したように、低いHC(上手なゴルファー)群ではCHSが高いにも関わらず、インパクト時のクラブフェースは常にスクエアに近くできるという運動スキルの差が影響しているとも考えられます。
図1. プロ群(左)・アマ群(右)のボール飛距離とフェウェイ中心からの距離
ティーショットでの飛距離の評価は、ドラコン選手のように1発の飛距離で評価するのではなく、75%飛距離(The distance of a group of shots such that one shot: 注1参照)で評価することで本来の個人の能力指標と近くなるため、その飛距離と落下地点から得られる精度(角度)との間の関係性を調査すると有意な負の相関関係が認められており、ロングドライブに優れたプレイヤーほど精度が高いことがわかります(図2)。またアメリカPGA(男子)のレベルでは、この観点で飛距離が長く精度が高いほど、スコアが良い(TOP40以下)にあることが示されています(Broadie,2014)。
図2. 75%飛距離とティーショットエリアからターゲットまでの角度との関係性
※注1: 75%飛距離 (第3四分位数):ドライバーショットを5回打った時は1番目と2番目によく飛んだ場合の飛距離の平均値が該当する。
2. 飛距離と成績(獲得賞金)との関係性
次にPGA、LPGA(女性)、SPGA(シニア)ツアーでの成績について、飛距離やその他のスタッツとの関係性を調査した研究を調べると、PGAではドライビングディスタンスが最も貢献度が高く、LPGAではGIR(Green in regulation: Par5なら3回以下、Par4なら2回以下、Par3なら1回でグリーンオンする率)が一番で、2番目がドライビングディスタンスとなっています。シニアPGAではスクランブル率(パーオンしなかった場合にパーかバーディーでホールアウトする確率)が一番であり、ドライビングディスタンスは4番目であったことが報告されています(Friedほか, 2014)。LPGAの場合は、朴セリ選手など多くの韓国人選手が躍進していた時期でもGIRの貢献度が高かった結果が導出されています(PfitznerとRishel, 2015)。これは我々が、同じ場所から2回打撃する機会を与えてプレーするセルフスクランブルを分析した結果、9ホールのトータルスコアに最も影響を与えていたスタッツ項目がGIRであった結果と同様の傾向であるといえます (Suzukiほか, 2020)。つまり男子プロ以下のレベルであるゴルファーでは、ティーショット飛距離の能力で足りない部分は、GIRを高める(2打目で積極的にグリーンオンを狙うこと2打目で積極的にグリーンオンを狙うこと)ことでスコアの向上に繋げることができるでしょう。
3. CHSに関連する要因
CHSの高さには、ベンチプレスの挙上重量やスクワットでの挙上速度の貢献度が大きいことは、我々が関東リーグAブロックに所属する男子大学生20名(身長: 171.5± 6.6 cm, 体重: 63.7±6.9 kg, Handicap (HC) = 4.2±3.4)を対象とした研究で明らかになっています (一川ほか, 2019)。しかしながら、CHSを高めるために上肢・体幹部の強化を図ることは非常に時間を要しますし、年齢等も考慮する必要があります。またその効果が必ずしもCHSに転換されないことは注意が必要です。
一方、世界World Long Drive Championshipで2度優勝したことのあるカナダ人ゴルファーであるJamie Sadlowski選手は身長178cm, 体重76kgで445ヤードの自己ベスト記録を有します(元来は左打ち)。このような偉大な記録を達成するには筋の伸張反射を利用した反動系トレーニングを重視していたと報告があり、彼は非常に細身であるが150マイル(約67m/s)以上のCHSを有し尋常でない飛距離を獲得していたことから、世界ゴルフ学会の事例研究として紹介がされています(Holt, 2013)。その中ではタイガーウッズがCHSを向上するために30ポンド(13.6kg)増量したことで2008年に膝を故障したことが紹介されており、Sadlowski選手も増量を試みたがCHSには殆ど変化がなく、長いゴルフキャリアを考えると推奨されないと指摘しています(なお現在はその飛距離を生かしてPGAカナダのツアープレイヤーに戻っている)。
以上のことから、CHSの高さは、元々の筋機能に依存する側面もあり、さらに正しいトレーニングを継続していかなければ、結果に結びつけることは非常に難しいことが予測されます。ただし、一般ゴルファーでも法線加速度という運動メカニズムを理解すれば、ティーアップしたドライバーショットでのCHSを一過性に高めることは可能になるかもしれません。 Miura(2001)は、インパクト直前にグリップエンドの内側方向(法線方向)へ引くと,シャフトの回転加速度が上昇することでクラブヘッドが加速する「パラメトリック加速」を国際誌で提唱していますが、この理論を大学生ゴルファーにおいて検証した国内の研究では、CHSが高いプレイヤーではダウンスイング直後から積極的にグリップを法線方向へ引く傾向が認められ、それにより法線加速度を高めていたことが確認されています(田邉, 2018)。この動きは陸上競技のハンマー投げと似ており、遠位にあるハンマーの重量に拮抗しながらグリップを引きつけ回転半径を小さくして法線加速度を得ることで、ハンマーを遠くに飛ばすというテクニックと似ています。ティーアップしたドライバーショットで実施してみる価値はありますが、十分に練習した上で、コースで試してもらいたいものです。
☆ロングドライブディスタンス挑戦に関する記事
本連載の監修を務める坂井氏のスタジオで勤務しトレーニング指導も受ける田澤大河氏が、以下の世界大会に日本代表として参加されます。お名前の通り、和製タイガーとしてPGAから初参加するブライソン・デシャンボー選手や現世界チャンピオンのカイル・バークシャー選手(デシャンボーの友人)らとの対決が楽しみです。
注目記事
PROFESSIONAL LONG DRIVERS ASSOCIATION (PLDA) World Championships September 27 - October 1
Bryson DeChambeau on why he’s competing in the World Long Drive Championship
引用資料
1) Fletcher, I. M., & Hartwell, M. (2004). Effect of an 8-week combined weights and plyometrics training program on golf drive performance. The Journal of Strength & Conditioning Research, 18(1), 59-62.
2) Hume, P. A., Keogh, J., & Reid, D. (2005). The role of biomechanics in maximising distance and accuracy of golf shots. Sports medicine, 35(5), 429-449.
3) Broadie, M. (2008). Assessing golfer performance using golfmetrics. In Science and golf V: Proceedings of the 2008 world scientific congress of golf (pp. 253-262). St. Andrews: World Scientific Congress of Golf Trust.
4) Broadie, M. (2014). Every shot counts: Using the revolutionary strokes gained approach to improve your golf performance and strategy. Avery.
5) Fried, H. O., Lambrinos, J., & Tyner, J. (2004). Evaluating the performance of professional golfers on the PGA, LPGA and SPGA tours. European Journal of Operational Research, 154(2), 548-561.
6) Pfitzner, C. B., & Rishel, D. T. (2005). Performance and compensation on the LPGA tour: A statistical analysis. International Journal of Performance Analysis in Sport, 5(3), 29-39.
7) Suzuki, T., Sheahan, J. P., Okuda, I., & Ichikawa, D. (2020). Investigating factors that improve golf scores by comparing statistics of amateur golfers in repeat scramble strokes and one-ball conditions.
8) 大学男子競技ゴルフ選手におけるクラブヘッドスピードを基底するウェイトトレーニング変数の検討
一川 大輔; 山口 郁弥; 高田 基希; 宮澤 太機; John Patrick SHEAHAN; 奥田 功夫
スポーツパフォーマンス研究 11 361 - 371 2019年08月
9) Holt, L. E., & Holt, J. (2013). Long Driving: The Sadlowski Case. International Journal of Golf Science, 2(1), 86-91.
10) Miura, K. (2001). Parametric acceleration–the effect of inward pull of the golf club at impact stage. Sports Engineering, 4(2), 75-86.
11) 田邉智. (2018). ゴルフスイング時のクラブヘッド速度と法線方向へのグリップ速度との関係について. 大阪体育学研究= Osaka research journal of physical education, (56), 39-49.
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