エビデンスゴルフWEB版 ショット編 Vol. 21
【著者】鈴木タケル(日本プロゴルフ協会会員)
一川大輔 (東洋大学 理工学部生体医工学科)
【監修】坂井昭彦 (The 蔵ssic)
●テーマ:ウォーミングアップ・トレーニングの効果
打球練習 + 機能的トレーニングによるドライバーの結果向上を目指す
はじめに
昨今では、ゴルフにおいてもフィジカル面の重要性が指摘され、プロゴルファーはもちろん、一般ゴルファーまで、フィジカルコンディションが良くないと自分の思うような結果に直結しないという考え方が浸透してきています。おそらく、ゴルフという競技の特性上、どうしてもスキルトレーニングに傾倒してしまい、プレイヤーへ何らかの影響を与えていたのかも知れません。またその他の理由で継続的な身体トレーニングが難しいとしても、短時間の事前トレーニングでドライバーのパフォーマンスがあがるのであれば、アマチュアの皆様も取り入れることができそうです。なおエビデンスゴルフのジュニア編では、動的ウォーミングアップの有用性について紹介しています。
●テーマ:ストレッチングの真実
静的ストレッチングと動的ストレッチングのエビデンスを理解して使い分けよう
http://evidence-golf.com/interview/junior_10.php
本項では、エリートゴルファー12名を対象に3種類のウォームアップトレーニングを別日にそれぞれ実践し、ドライバーのショットパフォーマンスを比較した研究を紹介します(文献1:男性エリートゴルファーにおける各種のウォーミングアッププログラムがゴルフパフォーマンスに及ぼす影響)。そして事前のエクササイズ介入によってショット能力へどのような効果が生じるのかをみていきたいと思います。
方法
・実験参加者
18~40歳のエリートゴルファー15名(プロ及びハンディキャップ2以下のアマチュア)
実験参加者は、医学的な質問紙を用いて現行の障害等がないことを確認した。そのうえで、通常トレーニング期・試合期であっても通常のトレーニング等を実施している期間において、4週間に3度のウォームアッププログラムを実施しました。なお実験中の15人参加者のうち、3名がリタイアし実験を全て完遂したのは12名となっています。
実験プロトコル
参加者は、最大4週間にわたり連続しない日時に3度実験を行うために専門のスポーツセンターを訪れ、各セッションで最大1時間必要な測定を行いました。研究バイアスの影響を減らすため、2名の研究者が安全性について説明し、1名の研究者が参加者のウォームアッププログラムを監督し、もう1名がデータ収集を行っています。参加者は、3枚のカードから1枚のカードを引くことで、ウォーミングアッププログラム3種類のうちの1つを選択しランダムに実践しました。それぞれのウォームアッププログラムが終了した後に、競技の時のように10球を自身の使用するドライバーにおいて最大努力で打撃しデータ測定をしました。なお、1打毎に1分の休息をとり、1球ごとにその打撃が正しく打撃できた場合はYes、そうでない場合はNoと回答をさせました。なお、実験期間中は同一のドライバーを使用するように指示され、ボールは全参加者で統一のボールを使用しています。 測定項目と3種類のウォーミングアッププログラムの内容は以下の通りです。
測定項目
①最大クラブヘッドスピード:Maximum Club head speed(MCHS)
②最大飛距離:Maximum driving distance(MDD)
③スマッシュファクター(SF):ボールスピード÷クラブスピード=スマッシュファクター、別名でミート率とも呼ばれる。
例.ボールスピード(60m/s)÷クラブヘッドスピード(40m/s)=1.50
1.50に近い程、芯に当たったことを意味し、悪いあたりでは約1.40以下になる
※ボールスピードとは、インパクト直後飛び出したボールの速度
④ドライバーの精度:Driving accuracy(DA)
目標とするターゲットのラインから左右の誤差をヤードによって表示
⑤一貫したボールの当たり方:Consistent Ball strike(CBS)
一回のショットの後に、主観的に一貫したボールストライク(CBS)であると感じたら「はい」または「いいえ」と回答した。簡単に説明すると良いショットと感じたか、悪いショットと感じたかを確認している。
「はい(良いショット)」と感じた回数を10回中何回であったのかを記録した。
※なお、各ショットのパフォーマンス要因(①~④)に関するデータは、赤外線ドップラーレーザーを利用したフライトスコープ(Flightscope®, EDH社製)を利用し測定した。
3種類のトレーニングプログラム(各2セットずつ:ランダムに選択)
①アクティブダイナミック ウォームアップ プログラム Active Dynamic warm-up program. (AD)
内容
1. 13kgのウェイト練習クラブでスイング×10
2. サンドウェッジでフルスイングショット×3
3. 8番アイアンでフルスイングショット×3
4. 4番アイアンでフルスイングショット×3
5. フェアウェイウッドで3フルスイングショット×3
6. ドライバーでフルスイングショット× 3
②上記①ADプログラムに加えて、セラバンド:Theraband®(ゴム製バンド:赤色)を用いた10分間のファンクショナル・レジスタンス・ウォームアップ
内容
1.立位で胴体を捻転する動作を両側で行う×10
2.立位でのランジ、胴体の捻転動作を両側で行う×10(図1参照)
3.胸部を内転するように右腕をクロスし、身体を内部捻転する×10
4.左腕の外部捻転と捻転を伴う肩の内転×10
5.右と左の胴体捻転を伴うウッドチョップ動作×10
③上記①ADプログラムに加えて、ウェイトバーを用いた10分間の多関節筋力プログラム(以下参照)に基づいた直線的運動
内容
1. 20 kgのバーベルを利用したデッドリフト×10,
15 kgのバーベルを利用したスナッチ×10,
20 kgのバーベルを利用したスクワット×10 (図2参照),
20 kgのバーベルを利用したベンチプレス×10,
20 kgのバーベルを利用したベントオーバーロウ×10
結果
①最大クラブヘッドスピード(MCHS)には、各トレーニングプログラム間で有意差がないという結果であった(表1.左から1枠目)。 マイル/時間から毎/秒へ換算すると、ADでは、平均110.96mph(49.6 m/s) AD+FRでは平均112.98mph(50.50m/s)AD+WTでは、平均112.38mph(50.24m/s)であり、5%水準で有意差は認められていない(p=0.073)。
②最大飛距離(MDD)には、有意な差が生じた(p=0.042)。 AD+FRウォームアップは、他に比べ約12ヤードは遠くに飛ばす傾向があった(表1.左から2枠目:黄色の枠)
③スマッシュファクター(SF)には、有意な差が生じた(p=0.004)。 AD+FRウォームアップは、他と比べ芯に当たる度合いが高い傾向があった(表1.左から3枠目:緑色の枠)
④ドライバーの精度(DA)には、有意な差はなかった
⑤一貫したボールの当たり方(CBS)には、有意な差が生じた(p=0.004)。 AD+FRウォームアップでは、打球者自身が良いショットと判断した試行が10回中9.16回であった。他と比較すると約1回分程度は多い傾向があった(表1.右から1枠目:赤色の枠)
表1. 3種類のウォーミングアッププログラム後のゴルフショットパフォーマンス結果
実際の活用法
これらの結果だけを見ると、素振りと打球練習にプラスしてセラバンド(Theraband®)での抵抗型ウォーミングアップを行った、AD+FRプログラム(2番目のプログラム)の効果が際立っているように感じてしまいます。統計学的なデータの理解が薄く今回の実験デザインの平均値だけをみると、何かセラバンドトレーニングだけが効果的であるような錯覚や偏り(バイアス)を感じてしまうかも知れません。実はこの研究では、同じ被験者群に対して3つのウォーミングアッププログラムを導入しているので、本来ならそれぞれのトレーニング効果が相互に関係していたはずです。しかし詳細に結果をみると分散分析での詳細が示されていないので注意が必要といえます。
リハビリ分野で多用されるセラバンドを批判するつもりはありませんし、実際に効果があることは確認出来ました。しかしながら、例えば、1番目のプログラムでのフルスイング動作での反復回数をもう増やして、トレーニング介入をした場合だったら結果はどうだったのか?2番目のプログラムではセラバンドを使用しないで、その他のファンクショナルトレーニングを導入したなら結果はどうだったかなどと考えを巡らせてしまいます。特に3番目のプログラム内容ではバーベルを利用しています。個人の自宅レベルではなかなかその器具を利用することはできないでしょう。しかし、最近では以下のようにアマゾンから組み立て式のバーベルやダンベルを入手することが出来ます。また体幹部や下肢を鍛えたければ、ウェイトを調整できるベストも販売されており、これならクラブを持たないでのゴルフスイングにも使えます。両方とも約5,000円程度から購入できますが、何も購入しなくとも子供やパートナーをおんぶしてのスクワットはすぐに実施可能です。家族のコミュニケーションツールの1つとしても良いウォーミングアップとなるかも知れませんね。
今回提示したこのラウンド前に習得すべきウォームアップトレーニング方法を本格的に習得するには、宇都宮市にあるゴルフコンディショニングスタジオ「THE 蔵SSIC(クラシック)」の坂井昭彦プロが様々な方法をアレンジし提唱します。You Tubeでも情報発信されていますので、ぜひご参照下さい。
https://crassic.com/personal/
https://www.youtube.com/@user-fu2og9mt1f/featured
引用資料
1.Tilley, N. R., & Macfarlane, A. (2012). Effects of different warm-up programs on golf performance in elite male golfers. International journal of sports physical therapy, 7(4), 388.
監修および測定協力施設
店舗名: The蔵ssic
住所: 栃木県宇都宮市河原町1-34
電話番号: 028-632-3636
店舗名: 駒沢ゴルフスタジオ
住所: 東京都世田谷区駒沢2-16-18 ロックダムコートB2F
電話番号: 03-5787-6936