④コーチングのフィロソフィー

 スポーツにおけるコーチングとは、「コーチとしてアスリートに働きかけること」全てを指します。働きかけることの内容は、主に競技パフォーマンスを向上させるためのトレーニングや技術指導、戦術の立案・指導などのことを指しますが、前述したようにアスリートへ行う様々な支援活動の全てを含みます。コーチングのタイプとしては、コーチがアスリートの前に立つ先導型と、コーチがアスリートを後押しする後方支援型の2種類に大別されます。どちらかが良いわけではなく、アスリートの特徴に応じて、あるいはコーチ自身の得意・不得意に応じてタイプを選択すれば良いでしょう。いずれにせよ、コーチのタイプも千差万別であり、アスリートへのアプローチ方法もトレーニング内容も、声掛けの言葉も多様であるため、「コーチングの正解」はなかなか1つに定まりません。日々のコーチングでは「ベスト」を追求するよりも、「ベター」を積み重ねるしかないのかもしれません。

 アスリートはトレーニングとともに日々成長し、身体的にも精神的にも時々刻々と変化し続けます。コーチはそんなアスリートに対して、フレキシブルに応じることが大切になります。ただ、「臨機応変に変化させるべきもの」と「安易に変化させるべきではないもの」がコーチングにはあります。前者は、トレーニングやアドバイスの内容などが該当し、後者はコーチングのフィロソフィー(哲学)が当てはまります。フィロソフィーは、「信念」と言っても良いかもしれません。フィロソフィーはコーチングの具体的な方法論的のことではなく、コーチの持つ価値観やコーチングの方針を形作る考え方のことを指します。アスリートに対して、コーチがフィロソフィーを明確に示し、その哲学を基に一貫性のあるコーチングを行うことで、身体的・スキル的にだけではなく精神的にも熟練したアスリートやチームを作ることができると思います。

 私自身のフィロソフィーは、「1cmの価値」を常に大切にすることです。子どもからトップアスリートまで、地区予選レベルから世界大会レベルまで、ありとあらゆる競技レベルのアスリートが自分の指導対象に混在しています。例えば、同じ男子大学生でも、走幅跳の自己ベスト記録が6m50cmの人もいれば、8m近く跳ぶ人もいます。当然競技レベルが上がれば上がるほど、1cmでも自己ベスト記録を更新することは難しくなります。ただ、競技レベルに関係なく、アスリートは皆それぞれ自分の限界を突破しようと日々努力をしており、このプロセスは大変尊いものです。自己ベスト記録を6m50cmから6m51cmに更新しても、8m00cmから8m01cmに更新しても、両者同じように1cmのベスト記録更新を喜べるコーチでありたいと常々思っています。


①コーチとは?

②コーチングのテリトリー

③トレーニングや練習の「文脈」を掴む

⑤経験と科学とコーチング